住まい
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『新生活』に関して

いのせゆい
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どうも、いのせです。
暮らしのショートエッセイを書きました。

栄養満点の土から生える木に

花を咲かせたい

お風呂でもこもこに泡立てた洗顔クリームを、そっと肌にのせる。
ふわふわな泡に触れて、肌が嬉しそう。気持ちいい。

肌に残った水分をていねいにティッシュをあてて、吸わせた。急いでユニクロのロングTシャツを首から被り、パンツを履いて、急いでリビングの鏡の前に座る。

化粧水を手に垂らす。お風呂で温まった手のひらの体温が、化粧水をじんわり温める。そっと両頬に手をあてる。やさしく、でも隙間が生まれないように、ぴったりと。大きく息を吸い込むと、時間がゆっくり流れているような感覚だ。

手のひらの化粧水がすっかりなくなると、スポイトで美容液を吸い取り、肌にたらりと直接2滴たらす。頬から流れる美容液が落ちないように、急いで額や顎や鼻先にまで薄く、そっと伸ばす。

あとは乳液とクリーム、くちびるにワセリンをたっぷり塗ったら、夜の儀式は終了だ。

スキンケアの楽しさみたいに、メイクの楽しさもいずれわたしもわかるだろうか?栄養満点の土を作っても、花の咲かない木は寂しい。そろそろメイクをなんとかしなければいけない。

たぶん、きっと

祖先が縄文人

ずっとずっとむかし、日本に縄文人が住んでいた。1万年ぐらい前だろうか。
その後弥生人がやってきて、稲作を広め、文化が発展した。そんな内容を歴史の授業で学んだ気がする。

ここですごく個人的な話だし、言い訳としか思えないことを呟かせてほしい。
わたしの祖先はきっと、生粋の縄文人なのではないだろうかということだ。
縄文人と弥生人の間に生まれた子供じゃなくて、縄文人と縄文人との子供。そんな気がするのだ。

だってそうじゃないと困る。
計画性というものが、まるっきりないんです。

学校の宿題は最終日にエイと終わらせるタイプ。
まるでギリギリまで原っぱでゴロゴロしていた縄文人が、そういえば食料が尽きそうじゃないかと気づいて、急いでモリを手に取りえっさほいさと鹿を追いかけるのと同じである。

大人になってつくづく思うのは、計画通りはつまらないけれど、大人の嗜みであるということだ。

わからないことが分からない

玉ねぎは一体どうやってむくんだ?

大学生のころ、片付けが苦手だった。

どうやら母と祖母に甘やかされて育てられたようで、一人暮らしをするまで、ろくすっぽ片付けなんかしたことがなかったのだ。思い返しても「片付けなさい!」「手伝いなさい!」と言われた記憶は、どれだけ脳内の記憶を引っ掻き回しても見つけることができない。忘れているだけかもしれないけど。

母が料理をして、片付けをしている間に、わたしは本を読んだりゲームをしていたり、ぎりぎりまで友人の家で遊んだりしていた。家族のせいで苦労をしてしまったということは今までなかった。

だから急にぽんと一人暮らしを始めた時は、それはひどい状況だった。
ゴミの分別から、フキンの除菌から、キャベツがどこまで食べられるのかまで、何一つわからないのだから。玉ねぎは一体どうやってむくんだ?

わからないことを自覚できているうちはまだましだ。少し面倒だけれど、スマホでぽちぽち調べれば答えなんて転がっていた。やっぱりやっかいなのは、わからないことがわからない時だ。

洗濯の仕方から掃除の頻度、シーツの管理からお金の管理。
上京して10年ちかく経って気づいたことは、わたしは家事をほとんどをわかっていなかったということである。

玉ねぎは色がなくなるまで剥けばいいのだろうか?
この薄皮は食べられる?
つながった根っこみたな部分はどうする?
保存方法は?
どの値段がお買い得の玉ねぎの値段?
処分方法は?

たまねぎひとつとってもこの有様だ。
一緒に買い物について回ったりしていたのに、ラクダみたいに荷物を運ぶことと、好物を買ってもらえるかだけ考えていたようじゃ、なかなか大切なことは身につかなかったみたい。

最初はぐちゃぐちゃな新生活だったけれど、気づけば人並みの生活環境を整えることができるようになっていた。そのうち慣れます。大丈夫。

手垢ひとつついていない

朝4時の空気

朝4時というと、起きる時間というよりは、寝る時間のほうが近い気がする。
丑三つ時から1時間と30分しか経っていないなんて、まだのんびりした幽霊が居座っているかもしれないし。

それでも、無性に朝4時に起きたくなる時がある。
朝の5時でも、夜の3時でもダメだ。朝の4時に起きたくなる。

日中に舞った微細なホコリが全て床におちて、少しだけ視界がクリアだ。
さっきまで夜を楽しんでいた人たちがようやくベッドに入った時間だ。

ホコリを立てないように、忍足で窓に近寄りカラリと開けると、やっぱりホコリが地面に全て落ちてしまったような透明な空が見れる。それもみるみる色が変わる。手垢ひとつついていない太陽が、燃えながら上がってくる。

少しずつ色が変わる空をしばらく見つめたら、分厚い服を着込んでコンビニに向かう。お目当てはデザートでも、コーヒーでもなく、新聞だ。棚に突っ込まれたばかりの新聞を買って、縮こまりながら部屋に戻り、熱いコーヒーを飲む。気になる記事を探して、赤の鉛筆で丸をつける。

まるで世界を独り占めしているようだ。こんな贅沢がプライスレスで本当にいいのだろうか?
でも、毎日早起きは難しいかな、眠いから。

ABOUT ME
いのせゆい
いのせゆい
作家
20代。くらしのエッセイを書いています。
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